ヘッジファンドが高レバレッジの運用を行いすぎたために金融システムの崩壊を助長し、リーマンショックや金融危機が引き起こされた――ヘッジファンドを語る際によくある通説として、「ヘッジファンドは金融市場をかき乱す」という文脈が挙げられます。
果たしてこれは事実なのでしょうか? ヘッジファンドは本当に金融システムを崩壊させうる諸悪の根源なのでしょうか?
今回は、ヘッジファンドが金融市場に与えるインパクトについて解説していきたいと思います。
ヘッジファンドが“金融市場荒らし”と考えられている理由
人気の浮き沈みにムラがあるとはいえど、ヘッジファンドが運用する投資額は年月を経るごとに増加しており、業界全体の運用総額は300兆円にものぼるといわれています。
さらに、海外のヘッジファンドではマネージドフューチャーズ(CTA)と呼ばれる高レバレッジな運用手法も多く取り入れられており、金融市場の動きを加速させるといわれています。
ちなみに、ヘッジファンド資金を運用する手法の構成比は以下の通りです。(2019年5月時点 出典:日興リサーチセンター)
- ロング・ショート(35.0%)
- イベント・ドリブン(9.9%)
- マネージドフューチャーズ(9.7%)
マネージドフューチャーズ(CTA)が全体の9.7%も利用されていることから、実際には300兆円の2倍~3倍もの資金が動いているといっても過言ではありません。
このように、ヘッジファンドは全体で莫大な資金を回しているということから、金融マーケットに多大な影響を与え、時に「金融市場を荒らしている」と考えられています。
ヘッジファンドが過去にマーケットにもたらした影響
では、過去にヘッジファンドがマーケットに与えたインパクトについてお話したいと思います。
とりわけ有名なのが、1992年に起こったポンド暴落ではないでしょうか。
政府による為替コントロール体制
その当時ヨーロッパでは通貨統合に向けた政府による「統合型リスク管理(ERM)」体制が敷かれていました。
その内容は、「為替を固定する」というもの。いわゆる、政府による為替のコントロール政策だったのです。
この政策によって、ポンドの価値は常に高く推移し続けていました。
イギリスの中央銀行であったイングランド銀行も、ポンド高を維持するために金融市場に介入し、無理な買い支えをしていました。
しかし、ポンド高とは裏腹に、当時のイギリスの経済状況は決して良かったわけではなく、経済収支では赤字を垂れ流しているという状況でした。
以上のことから、とある投資家が「ポンドの価格が実際の価値に伴っていないのではないか」ということ疑問視しはじめたのです。
一晩でポンドを破壊した男、ジョージ・ソロス
その投資家の名は、ジョージ・ソロス。
彼はいずれポンドが暴落するであろうということを誰よりもはやく察知し、“ポンドの大量空売り”を決行します。
資産家であったジョージが一夜にして大量のポンドを売ったことによって、ポンドの価格が下落し、イギリスの金融市場は大パニックを引き起こします。
そして、「価値が下がった通貨を保有し続けるのは危ない」として、多くの投資家や銀行もポンドを売りはじめたことによって、ポンドはついに未曾有の大暴落に見舞われることになります。
こうして、ポンドはERM体制からの脱退を余儀なくされ、為替レートは変動相場制へと変わっていきました。
この一件によってジョージは10億~20億ドルもの利益をあげたといわれており、ジョージ率いるヘッジファンドが「イングランド銀行を打ち負かした」という逸話としていまでも語り継がれています。
ヘッジファンドは本当に悪か?
ポンド暴落のような話はあくまでも氷山の一角でしかありません。
たとえば、1997年に起こった「アジア通貨危機」も、ポンド暴落と同じく大量の空売りによるタイバーツの大暴落によって金融市場が混乱の渦に巻き込まれたという事件です。
それほどまでに、ヘッジファンドの一挙手一投足はマーケットに大きな影響を与えうるということです。
では、ポンド暴落やアジア危機のようにマーケットを混乱させた過去があったからといって、ヘッジファンドは本当に悪者だと言い切ることができるのでしょうか?
マーケットを正常な状態に戻す役割も担っている
答えは否です。
先のポンド暴落の件では、政府による為替レートへの介入を強制的に取りやめさせたという、政治的に非常に大きな功績をあげることに成功しています。
もちろん、ヘッジファンドは莫大すぎる力を保有しているので、時には金融市場に悪影響をもたらす場合もあるでしょう。
しかし、見逃さないで頂きたいのは、その強大な資金力が歪んだマーケットを正常な状態に戻すための調整役としての役割も担っているということです。
力が大きすぎると、いいようにも悪いようにもどちらにも作用してしまいます。ですので、大切なのはヘッジファンドの特性をしっかりと理解したうえで、冷静にマーケットの動向を見てヘッジファンドの影響を見定めることなのではないでしょうか。